すくうもの 2
この時、すくうものは未だ人を救うだけの力を持っていなかった。
しかし、彼の心は既にすくうものに相応しいものに成長しつつあった。
そして、ある転機によって、劇的な変化を見せるが、それはまだ先の話。
しかし、彼の心は既にすくうものに相応しいものに成長しつつあった。
そして、ある転機によって、劇的な変化を見せるが、それはまだ先の話。
野山を駆け回り、言われたとおりの薬草やコケを採取する。
ここ最近、そればかりしている。クトゥネは、体力をつけるのが目的とか言ってたな。
材料の採取も出来て、体力もつく。確かに一石二鳥かも知れない。
でも、一つ言いたい。納得は出来るんだが、とにかく言いたい。
「だからって、何でこんな崖で採取せにゃならんのだー!!」
断崖絶壁をよじ登り、そこにのみ生える薬草を採取させられている。確かに、最近体力がついてきた。
でも、何だよこれ。ひどくねぇか? 無理じゃないけど、キツイんだぞ、これ。
いや、まあ、いいんだけどな? 俺みたいなクズが、教えを受けられるんだから。でもキツイんだぜ?
こちとら、被虐趣味など持ち合わせてはいないのだ。
しかし、逆らえないので大人しく採取するしかない。ひでえ。
採取を終えて、下につくとクトゥネが待ち構えていた。
「おー、見事なもんだ。とてもじゃないけど、私には出来ないねぇ」
「自分ができねえのに、人にやらせようってのはどうなんだ?」
「何言ってるんだい。自分じゃ出来ないから、人にやらせるんじゃないか。大体、こんなにいい体してんだから、それぐらい出来ないでなんなのさ!」
そう言えば、薬師としての勉強を始めたばかりのころとは、筋肉の量が違うかもしれねぇ。
多分、体の横幅こそ変わってないが、筋肉で絞ったような感じになった。使う筋肉だけ鍛えられているのが大きいか。
おっと、そういや、何箇所か切ったんだっけ。傷薬を手早く調合して塗る。傷は気をつけないと、そこが病気の原因になるから、処置をしておくに越したことはない。
「しっかし、まあ、そんなに早く調合を出来るようになるとはねぇ」
「師匠が良いからな。それより、これから何処へ行くんだ?」
「そうだねぇ……この辺の地理を考えると。ヤマユラしかないねぇ。アンタにゃ悪いけど、そこに寄らないと食料が尽きちまうんだよ」
「……別にいい。顔を隠して喋らなきゃいいだけだ。その辺りの言い訳を言ってくれりゃ、それでいい」
何時かあるかも知れないと、覚悟はしていた。だから、余った布で顔を覆う頭巾を既に作ってある。
クトゥネは申し訳なさそうな顔をしたが、気に病む必要はないと思うんだが。自業自得でしかないのだから。
少し重苦しくなった、雰囲気をどうにかしようと、何か別の話題を振ることにした。
「そういや、クッチャ・ケッチャが最近きな臭いらしいが、どう思う?」
「あー、裏切った皇の義弟だかが、生きていてどこかの国の皇だとか何とか騒いでるらしいねぇ。この時期に騒ぐってことはハクオロ皇のことだと思うけど」
「嘘の情報に踊らされてるって所じゃねぇか? あのハクオロがそんな下衆なわきゃねぇよ。じゃなかったら、民衆がついてこねぇ」
「同感だね。そんなことも分からないようじゃ、クッチャ・ケッチャの先は短いね」
うまいこと別の話題に出来たことにほっとする。ちなみに、行商人から仕入れた情報だ。
それにしても、クッチャ・ケッチャは大丈夫なのだろうか。少し考えれば分かる話だと思うんだが。
簡単に裏切るようなやつが、人を率いれる訳がない。反乱を起こすというのは、危険な行為だ。
それをを承知で反乱を起こすようなら、そもそも裏切る筈がない。
復讐心で見えるはずも物が見えなくなってしまっているのだろうか。そうだとしたら、それは恐ろしいと思う。
そんなことを考えながら、御者台に乗る。クトゥネが隣に乗ったのを確認すると、ウマを走らせた。
時々休憩を挟みながら、半日馬車で移動してヤマユラに到着した。到着する少し前に幌のついた荷台に引っ込むと、頭巾を被った。
馬車の到着に、興味津々な様子で村人達はこちらを見ている。そして、現在村長をやっているテオロがやってきた。
「おう、旅人か。歓迎するぜ。俺は村長のテオロってもんだ」
「私はクトゥネ。旅の薬師さ。そっちは弟子のエムシ。酷い火傷の跡があるから、顔を隠してる。口も利けないから、そこんとこよろしく」
俺は頭だけ下げておく。テオロは似合わない神妙な顔をする。正直、笑いそうになってしまった。何とか自重したが。
食料を調合済みの粉薬(長い期間持つもの)と物々交換した。その後、歓迎の宴が行われた。盛大に振舞われた馳走(とは言っても、豪華さとは程遠い。あくまでヤマユラ基準だ)と酒に宴は騒がしさを増して行く。
俺は酒を断り、腹八分目程度に食べると、俺は宴から遠ざかった。あの場所にいるのが苦痛だから。
俺なんかが、あの場所に居ていいはずがない。忘れるな。俺は罪人でしかないのだと、改めて自分に釘を刺す。
遠巻きに、宴の様子を見ていると、ソポク姉がやってきた。どうも、さっさと離れた俺を気にかけたらしい。ったく、相変わらず世話焼きなこった。
「どうしたんだい。こんなところで。ほら、あっちに混ざってきなよ」
首を振る。気をかけてくれるのは嬉しいが、とてもではないがそんなことは出来そうになかった。
俺の様子に何か思ったのか、ソポク姉は「そうかい」と苦笑い気味に返しただけで、何も言わなかった。
宴の中心から、テオロの酒を催促する声がかかった。それに対し、ソポク姉は文句をいいつつも、酒の準備を始めた。
そんな平和な光景を見て、俺は罪悪感を感じるしかなかった。
何を暢気に宴を眺めているんだ俺は。あいつらの姿を見て、少しでも心を緩めたことを戒める。
どの面下げて、そんなことを思うんだ。最低だ。
苛立ちとともに、夜は深まっていった。
翌日、村外れの小川で顔を洗い、頭巾を被る。あてがわれた家に戻ると、クトゥネが忙しそうに何かの準備をしていた。
「ごめん、朝飯作ってくれないか? 村人の検診の準備で忙しいんだよ」
「あ、ああ」
モロロ粥を作ると、二人でさっさと食べ、クトゥネの手伝いを始める。
準備が終わる少し前になると、村人達が今か今かと待ち構えていた。
そして、検診を始めた。女連中を先に始めて、俺や村の男どもは外で待機。皆どこかそわそわして、落ちつかなそうだ。
男どもの検診が始まると、俺は検診の手伝いをした。と言っても、少なくとも男どもに病気は認められず、あったのはちょっとした傷ぐらい。
それを処置すればおしまいだ。それが終わるたびに、連中は俺に向かって感謝の言葉を言った。
その度に、俺は感謝されるような人間ではない、と心の中で呟く。
検診が終わり、村人達が自分達の仕事に戻っていく。
「クトゥネ、ちょっと薬の材料取ってくる」
「あいよ。こっちは色々やることがあるから、手伝えないからね」
その言葉に手を上げて答えると、籠を背負い、薬の材料を求めて森に踏み込んだ。
森は薬草の宝庫だった。コケなんかも使えるものが多い。中々取れない貴重なものも多く取れ、中々充実した内容だった。
かなり動いたので、汗がかなり吹き出た。頭巾は汗を吸い取り、気持ちが悪い。
森から出て、頭巾を外す。しかし、それは失敗だった。
何故なら――
「……アンタ、ヌワンギだったのかい」
ソポク姉がちょうどこっちに来ていたからだ。俺は無視をしようと思った。
頭巾を被り直し、その場を立ち去ろうとした。しかし、それは果たせない。
ソポク姉によって、肩を掴まれてしまったために。
俺の顔をジロジロ見ると、どこか安心した様子を見せた。
「……ふうん。少しはマシになったみたいじゃないか」
「多分、俺が戻ってからこの村を出発する。これ以上長居するつもりは無ぇ。わりぃな、俺なんかが来ちまって」
「それじゃ、その前に、アタシは聞いておきたいね。ヌワンギ、あの薬師の弟子ってことはアンタ、薬師になるつもりだね?」
ソポク姉は俺を怒鳴り散らすようなことはしなかった。
俺はあんなに迷惑をかけたっていうのに。何でなんだろう。
そんな疑問を感じながら、答える。
「ああ。薬師になって、人の命を救い続ける存在でありたい。……これが俺なりの償いだ」
「どこかの辺境で、細々と生きる方が楽なんじゃないかい?」
「俺なんかには、許されない。俺は償うんだ。俺のせいで死んだ――いや、俺が殺しちまったやつらより、多くの命を救わなきゃいけない」
以前の自分では考えられない言葉。まさか、こんなことを言う日が来るなんて、あの頃の俺からすれば考えられないだろう。
しかし、現に俺はこうしている。人を救える人間になれるよう、足掻いている。
けど、人を救うためには、知識、技術がまだまだ足りねぇ。失われつつある、全ての命を救うには、ばあちゃん程の知識と技術を持ってしても無理。
不治の病という壁、一人では結局手が足りないという限界。
それを超えることこそが、ばあちゃんを超えるということ。こうして考えると、どれだけ無茶な目標なのかがよく分かる。でも、俺は超えなくてはならない。
償うために。
「アンタはまた変わったね。しかも、それがいい変化なのか悪い変化なのかわからない。全く、変に歪んでるなんて、手に負えないよ」
「まあ、確かに歪んでるかもな。けど、そんなことは知ったこっちゃねぇ」
「ったく、ほんと救いがないほどバカだね。……まあ、昔のアンタを思い出すよ」
そう言って、苦笑いを零すソポク姉。
ま、確かに俺はバカだな。熱くなると周りを見えなくなるし、思い込んだら固執し続ける。
バカはバカなりにやってくさ。バカに相応しい最期を迎えるまでな。
「それじゃ、俺は戻る。じゃあな」
そう一方的に言って、俺は村に戻った。村に戻るとクトゥネが、馬車を出発させる準備をしていた。
籠を馬車に乗せると、俺もその作業を手伝った。
作業が終わると、村人達に別れの挨拶をしてから、馬車に乗り込む。見送りに来ていた連中が、また来いよなどと言ってくる。
「二人とも元気でな! がははははは」
テオロのその豪快な笑い声を背に受けながら、出発する。
ふと、振り向くとソポク姉が笑顔で手を振っている。
こうして、俺たちは村を去った。……その後、何が起こるのかも分からずに。
ここ最近、そればかりしている。クトゥネは、体力をつけるのが目的とか言ってたな。
材料の採取も出来て、体力もつく。確かに一石二鳥かも知れない。
でも、一つ言いたい。納得は出来るんだが、とにかく言いたい。
「だからって、何でこんな崖で採取せにゃならんのだー!!」
断崖絶壁をよじ登り、そこにのみ生える薬草を採取させられている。確かに、最近体力がついてきた。
でも、何だよこれ。ひどくねぇか? 無理じゃないけど、キツイんだぞ、これ。
いや、まあ、いいんだけどな? 俺みたいなクズが、教えを受けられるんだから。でもキツイんだぜ?
こちとら、被虐趣味など持ち合わせてはいないのだ。
しかし、逆らえないので大人しく採取するしかない。ひでえ。
採取を終えて、下につくとクトゥネが待ち構えていた。
「おー、見事なもんだ。とてもじゃないけど、私には出来ないねぇ」
「自分ができねえのに、人にやらせようってのはどうなんだ?」
「何言ってるんだい。自分じゃ出来ないから、人にやらせるんじゃないか。大体、こんなにいい体してんだから、それぐらい出来ないでなんなのさ!」
そう言えば、薬師としての勉強を始めたばかりのころとは、筋肉の量が違うかもしれねぇ。
多分、体の横幅こそ変わってないが、筋肉で絞ったような感じになった。使う筋肉だけ鍛えられているのが大きいか。
おっと、そういや、何箇所か切ったんだっけ。傷薬を手早く調合して塗る。傷は気をつけないと、そこが病気の原因になるから、処置をしておくに越したことはない。
「しっかし、まあ、そんなに早く調合を出来るようになるとはねぇ」
「師匠が良いからな。それより、これから何処へ行くんだ?」
「そうだねぇ……この辺の地理を考えると。ヤマユラしかないねぇ。アンタにゃ悪いけど、そこに寄らないと食料が尽きちまうんだよ」
「……別にいい。顔を隠して喋らなきゃいいだけだ。その辺りの言い訳を言ってくれりゃ、それでいい」
何時かあるかも知れないと、覚悟はしていた。だから、余った布で顔を覆う頭巾を既に作ってある。
クトゥネは申し訳なさそうな顔をしたが、気に病む必要はないと思うんだが。自業自得でしかないのだから。
少し重苦しくなった、雰囲気をどうにかしようと、何か別の話題を振ることにした。
「そういや、クッチャ・ケッチャが最近きな臭いらしいが、どう思う?」
「あー、裏切った皇の義弟だかが、生きていてどこかの国の皇だとか何とか騒いでるらしいねぇ。この時期に騒ぐってことはハクオロ皇のことだと思うけど」
「嘘の情報に踊らされてるって所じゃねぇか? あのハクオロがそんな下衆なわきゃねぇよ。じゃなかったら、民衆がついてこねぇ」
「同感だね。そんなことも分からないようじゃ、クッチャ・ケッチャの先は短いね」
うまいこと別の話題に出来たことにほっとする。ちなみに、行商人から仕入れた情報だ。
それにしても、クッチャ・ケッチャは大丈夫なのだろうか。少し考えれば分かる話だと思うんだが。
簡単に裏切るようなやつが、人を率いれる訳がない。反乱を起こすというのは、危険な行為だ。
それをを承知で反乱を起こすようなら、そもそも裏切る筈がない。
復讐心で見えるはずも物が見えなくなってしまっているのだろうか。そうだとしたら、それは恐ろしいと思う。
そんなことを考えながら、御者台に乗る。クトゥネが隣に乗ったのを確認すると、ウマを走らせた。
時々休憩を挟みながら、半日馬車で移動してヤマユラに到着した。到着する少し前に幌のついた荷台に引っ込むと、頭巾を被った。
馬車の到着に、興味津々な様子で村人達はこちらを見ている。そして、現在村長をやっているテオロがやってきた。
「おう、旅人か。歓迎するぜ。俺は村長のテオロってもんだ」
「私はクトゥネ。旅の薬師さ。そっちは弟子のエムシ。酷い火傷の跡があるから、顔を隠してる。口も利けないから、そこんとこよろしく」
俺は頭だけ下げておく。テオロは似合わない神妙な顔をする。正直、笑いそうになってしまった。何とか自重したが。
食料を調合済みの粉薬(長い期間持つもの)と物々交換した。その後、歓迎の宴が行われた。盛大に振舞われた馳走(とは言っても、豪華さとは程遠い。あくまでヤマユラ基準だ)と酒に宴は騒がしさを増して行く。
俺は酒を断り、腹八分目程度に食べると、俺は宴から遠ざかった。あの場所にいるのが苦痛だから。
俺なんかが、あの場所に居ていいはずがない。忘れるな。俺は罪人でしかないのだと、改めて自分に釘を刺す。
遠巻きに、宴の様子を見ていると、ソポク姉がやってきた。どうも、さっさと離れた俺を気にかけたらしい。ったく、相変わらず世話焼きなこった。
「どうしたんだい。こんなところで。ほら、あっちに混ざってきなよ」
首を振る。気をかけてくれるのは嬉しいが、とてもではないがそんなことは出来そうになかった。
俺の様子に何か思ったのか、ソポク姉は「そうかい」と苦笑い気味に返しただけで、何も言わなかった。
宴の中心から、テオロの酒を催促する声がかかった。それに対し、ソポク姉は文句をいいつつも、酒の準備を始めた。
そんな平和な光景を見て、俺は罪悪感を感じるしかなかった。
何を暢気に宴を眺めているんだ俺は。あいつらの姿を見て、少しでも心を緩めたことを戒める。
どの面下げて、そんなことを思うんだ。最低だ。
苛立ちとともに、夜は深まっていった。
翌日、村外れの小川で顔を洗い、頭巾を被る。あてがわれた家に戻ると、クトゥネが忙しそうに何かの準備をしていた。
「ごめん、朝飯作ってくれないか? 村人の検診の準備で忙しいんだよ」
「あ、ああ」
モロロ粥を作ると、二人でさっさと食べ、クトゥネの手伝いを始める。
準備が終わる少し前になると、村人達が今か今かと待ち構えていた。
そして、検診を始めた。女連中を先に始めて、俺や村の男どもは外で待機。皆どこかそわそわして、落ちつかなそうだ。
男どもの検診が始まると、俺は検診の手伝いをした。と言っても、少なくとも男どもに病気は認められず、あったのはちょっとした傷ぐらい。
それを処置すればおしまいだ。それが終わるたびに、連中は俺に向かって感謝の言葉を言った。
その度に、俺は感謝されるような人間ではない、と心の中で呟く。
検診が終わり、村人達が自分達の仕事に戻っていく。
「クトゥネ、ちょっと薬の材料取ってくる」
「あいよ。こっちは色々やることがあるから、手伝えないからね」
その言葉に手を上げて答えると、籠を背負い、薬の材料を求めて森に踏み込んだ。
森は薬草の宝庫だった。コケなんかも使えるものが多い。中々取れない貴重なものも多く取れ、中々充実した内容だった。
かなり動いたので、汗がかなり吹き出た。頭巾は汗を吸い取り、気持ちが悪い。
森から出て、頭巾を外す。しかし、それは失敗だった。
何故なら――
「……アンタ、ヌワンギだったのかい」
ソポク姉がちょうどこっちに来ていたからだ。俺は無視をしようと思った。
頭巾を被り直し、その場を立ち去ろうとした。しかし、それは果たせない。
ソポク姉によって、肩を掴まれてしまったために。
俺の顔をジロジロ見ると、どこか安心した様子を見せた。
「……ふうん。少しはマシになったみたいじゃないか」
「多分、俺が戻ってからこの村を出発する。これ以上長居するつもりは無ぇ。わりぃな、俺なんかが来ちまって」
「それじゃ、その前に、アタシは聞いておきたいね。ヌワンギ、あの薬師の弟子ってことはアンタ、薬師になるつもりだね?」
ソポク姉は俺を怒鳴り散らすようなことはしなかった。
俺はあんなに迷惑をかけたっていうのに。何でなんだろう。
そんな疑問を感じながら、答える。
「ああ。薬師になって、人の命を救い続ける存在でありたい。……これが俺なりの償いだ」
「どこかの辺境で、細々と生きる方が楽なんじゃないかい?」
「俺なんかには、許されない。俺は償うんだ。俺のせいで死んだ――いや、俺が殺しちまったやつらより、多くの命を救わなきゃいけない」
以前の自分では考えられない言葉。まさか、こんなことを言う日が来るなんて、あの頃の俺からすれば考えられないだろう。
しかし、現に俺はこうしている。人を救える人間になれるよう、足掻いている。
けど、人を救うためには、知識、技術がまだまだ足りねぇ。失われつつある、全ての命を救うには、ばあちゃん程の知識と技術を持ってしても無理。
不治の病という壁、一人では結局手が足りないという限界。
それを超えることこそが、ばあちゃんを超えるということ。こうして考えると、どれだけ無茶な目標なのかがよく分かる。でも、俺は超えなくてはならない。
償うために。
「アンタはまた変わったね。しかも、それがいい変化なのか悪い変化なのかわからない。全く、変に歪んでるなんて、手に負えないよ」
「まあ、確かに歪んでるかもな。けど、そんなことは知ったこっちゃねぇ」
「ったく、ほんと救いがないほどバカだね。……まあ、昔のアンタを思い出すよ」
そう言って、苦笑いを零すソポク姉。
ま、確かに俺はバカだな。熱くなると周りを見えなくなるし、思い込んだら固執し続ける。
バカはバカなりにやってくさ。バカに相応しい最期を迎えるまでな。
「それじゃ、俺は戻る。じゃあな」
そう一方的に言って、俺は村に戻った。村に戻るとクトゥネが、馬車を出発させる準備をしていた。
籠を馬車に乗せると、俺もその作業を手伝った。
作業が終わると、村人達に別れの挨拶をしてから、馬車に乗り込む。見送りに来ていた連中が、また来いよなどと言ってくる。
「二人とも元気でな! がははははは」
テオロのその豪快な笑い声を背に受けながら、出発する。
ふと、振り向くとソポク姉が笑顔で手を振っている。
こうして、俺たちは村を去った。……その後、何が起こるのかも分からずに。
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